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泉美木蘭
2016.2.26 13:34

103万円のパートさん、130万円のパートさん。

学生時代アルバイトしていた地元のファストフード店には、
午前中だけ働く『103万円のパートさん』がいた。
ある時、主力のバイトが突然辞めることになって、少しの間だけ、
みんなで穴埋めすることになり、シフトの希望を出し合った。
そのとき、パートさんが店長にこう言った。

「夕方までは働けますけど、103万円を越えないように調整して下さい」
自分のパート年収が103万円を越えない範囲でなら働く、という意味。
このパートさんには、サラリーマンの夫がおり、税制上、夫の収入との
釣り合いをとることで節税し、家計をやりくりしていた。

・手取りを減らさないために、非課税限度額ぎりぎりの金額で働きたい
・税制上、夫が配偶者控除を受けられる範囲の収入におさめたい
・夫が会社から家族手当を受けており、妻の収入条件には上限がある

もちろんだけど、パートさんも税金を払わなければいけない。
年収から、基礎控除(38万円)と給与所得控除(65万円)=103万円
差し引いた金額に所得税がかかる。
ということは、収入が103万円以下なら非課税、手取りは減らない。

また、このパートさんの場合、夫が勤務先から家族手当を月額1万円
支給されていたが、この支給要件が「妻の年収が103万円以下」だった。
仮に、年収100万円だったパートさんが、店の都合でシフトを増やし、
年収が105万円になった場合…

105万円-103万円=2万円が妻の所得額。
2万円にかかる所得税率は5%だから、妻のおさめる所得税は2000円。
差し引きして、前年の手取り100万円から、4万8000円の手取り額UP。

ところが、夫の勤務先の家族手当支給要件から外れてしまうため、
年額12万円の手当を失う。微々たるものだが、住民税も増額。
結局、働いた分だけ損したことになってしまう。

このプラスマイナスを凌駕するだけ妻が働けばよいけれども、
それは今の店では無理。辞めて新しい働き先を探すことになる。
それにこのパートさんの場合、家族の事情があり、簡単に働き方を
変えるわけにはいかなかった。



しばらくアルバイトしていた携帯電話販売店には、
『130万円のパートさん』がいた。

「このままじゃ130万円越えそうなのよ。夫の扶養から外されたら大変。
かと言って、もっと働かせてくれるわけじゃないでしょ……」

このパートさんも、夫がサラリーマン。
これまで夫の社会保険上の扶養となっていたため、健康保険料と
国民年金の保険料が免除されていた。
ところが、年収が130万円を超過すると、この扶養からはずれるため
夫とは別に社会保険に加入し、保険料を自己負担することになる。

健康保険料が月額約5000円。
国民年金保険料が月額約15000円。
所得税や住民税のほかに、合計24万円の負担増に。

また、夫が受けていた配偶者特別控除も、38万円⇒11万円に減額。
自分の所得税、住民税のほか、夫にかかる税金も増額になる。

こうなると、収入130万円未満の時の世帯の手取り金額を上回るには、
妻がもっと働いて、収入を170万円近くまで上げなければならなくなる。
しかし、このパート先では、そこまでの収入アップは不可能。
130万円のパートさんは、「働き方を考えなおす」と言って辞めていった


今年の10月には、このパートタイマーの厚生年金適用基準が変わり、
一定の条件を満たす勤務条件下では、年収106万円以上になると
夫の扶養からはずれ、厚生年金保険料や健康保険保険料を自己負担
することになる。
『106万円のパートさん』の誕生だ。
よし、それならバリバリ働いて200万、300万と稼いじゃうわ、
みんながキラキラしながらそう言えるというならいいけれど・・・。

富裕層がタワーマンションを買って数千万円、あるいはウン億円の
単位で節税するその一方で、
庶民はこうやって5000円でも1万円でも節税しようと考えている。
安倍首相の言う「妻がパート月収25万円」なんて、ちゃんちゃらおかしい。
泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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